院長ブログ

ゆっくり急げ~Fastina lente~

オンライン診療とテクノロジーの進化を考える
2020.12.20

近年のインターネットの進化に加えて、新型コロナウイル流行により、人はリモートワークを強いられるように、あるいは、率先してリモートワークに移行しようとしています。しかし一方で私たちは、これが自然ではないと感じ、違和感を持っている面もあります。

オンライン診療とういう新しい診察スタイルに興味があった私は、新型コロナウイルス流行に伴いオンライン診療の規制が時限的特例措置で大幅に緩和されたこともあり、「ものは試しに・・」とオンライン診療を試してみました。

実際にオンライン診療を始めてみると、新型コロナウイルス流行第1波の4月から6月までは、1ヶ月に4-5人のオンライン診療の希望がありましたが、7月以降の希望者は激減し、11月末までにオンライン診療を利用した患者さんは2人でした。そして、オンライン診療を行った多くの患者さんが、「改善したけど念のため」「だいぶ症状が楽になったけど念のために」と対面診療で再診されました。この傾向は当院だけではないようで、日常の保険診療においてオンライン診療が一部の職種のリモートワークのように広がっているのではなさそうです。

 

何がオンライン診療の普及を妨げているのか? オンライン診療が広がりつつある、海外とどこが違うのか? このような話題になると、よく医師会の抵抗だとか法的な規制が話題になりますが、はたして本当にそうなのか・・・ぼんやり考えている時期に、1人の外国人の患者さんと出会いました。

その患者さんは、近隣の会社で働いているオーストラリア人で、健診の胸部X線写真で異常を指摘されて受診されました。結局、その異常影は問題なかったのですが、説明の後に「会社への診断書や報告書は必要ですか?」と尋ねたところ、彼は「必要ありません。」「会社は私の健康は守ってくれるわけではありません。」「自分の健康管理も、自分のビジネスの1つと考えています」とおっしゃっていました。私はこの患者さんの考え方に好感を持ち、勢いよく診察室を出て行く彼を見送りながら「オンライン診療に向くのは、このような考えの人なのだ」と思いました。

考えてみると、オンライン診療には医師側、患者側にそれぞれ相性があって当然です。医師を「自分の健康を管理するパートナー」と考えて、医師とパートナーシップを築ける人、思考の主体が自分にあり自分の健康については自分で判断するために「医師を上手に利用で出来るような人」はオンライン診療と相性が良いと考えます。一方、自分自身を冷静に客観視出来ず、「不安の強い人」はオンライン診療には向いていないと考えます

オンライン診療で得られる情報は限られ、対面診療より診察の精度が落ちるので、オンライン診療の特性を理解した上で情報を与えてくれる相手でないと、医師側もオンライン診療で適切な診察は困難です。オンライン診療の普及には、自分の責任で思考して判断できる人たちが増え、お互いの信頼関係を築き上げることが必要です。政府やIT系企業が前のめりに推進する前に、「健康管理や治療の主体は自分自身」という考えが広がらないと医師側もオンライン診療を安心して積極的に使うことは難しいように思います。

 

リモートワークやオンライン化により人々の関係性が希薄になり、孤立しやすくなると危惧される面もあります。しかし、テクノロジーの進化は、物理的な距離の移動を必要としなくなり、遠隔地や僻地診療など、今まで十分な医療が受けられない人々に恩恵をもたらす可能性があります。将来、地域医療の中でも、VRによるバーチャル往診やロボットによる代理往診も実現するかも知れません。テクノロジーの進化は、医療側と患者さんが信頼し理解し合い、協力し合うことで、より良い医療の実現に寄与すると考えます。

 

==甘利内科呼吸器科クリニック==呼吸器内科==アレルギー科==長野市==

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