信濃毎日新聞の3月27日の朝刊に、このような記事が掲載されました。
血圧の薬を内服している方は、さぞかし驚いたでしょう。
でも、これは一つの論文であって、確定し認定された事実ではありません。
現状での当院の考え方を、専門医の先生方の意見を基にして下記に示しました。
降圧薬と新型コロナウイルスとの関係について
結論:現時点では降圧剤をやめない方が良いと考えます
根拠
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は肺や腎臓などの上皮細胞に発現しているアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を介して標的細胞に結合し侵入することが分かっています。
血圧を上げたり下げたりするのは、レニン-アンギオテンシン系と呼ばれる体内のシステムです。
このレニン-アンギオテンシン系を調整し血圧を下げる作用を持つのが、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)、アンジオテンシン受容体拮抗薬 (ARB)と呼ばれる薬剤です。
これらの薬剤を内服している人ではACE2の発現が体内で増加することから重症化しやすいのではないかという意見があります。 (Lancet Respir Med. 2020 Mar 11. pii: S2213-2600(20)30116-8.)。
しかし、一方で、新型コロナ患者にARBを慢性的に内服している患者では重症化リスクを高めるのではなく、むしろ急性肺障害から保護する可能性があるとする逆の論文も出ています(Drug Dev Res. 2020 Mar 4.Drug Dev Res. 2020 Mar 4.)。
血圧の薬と新型コロナウイルスとの関連については、欧州高血圧学会(European Society of Hypertension; ESH)、国際高血圧学会(International Society of Hypertension; ISH)、欧州心臓病学会(European Society of Cardiology; ESC)が相次いで声明を出しています。
以下はESCの声明です。
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COVID-19に関連したACE-iまたはARB治療の安全性については、それを裏付ける健全な科学的根拠または証拠がありません。実際、これらの薬物療法は新型コロナ感染患者の肺合併症に対して保護的に働く可能性があることを示唆する動物での研究からの証拠がありますが、今日までヒトにはデータがありません。
欧州心臓病学会の高血圧評議会は、新型コロナウイルスに関連してACE-IおよびARBの有害な効果を裏付ける証拠はないと強調しています。
新型コロナ感染のためにACEIまたはARBによる治療を中止することを示唆する臨床的または科学的証拠がないため、高血圧評議会は、医師および患者が通常の降圧療法による治療を継続することを強く推奨します。
出典:欧州心臓病学会(European Society of Cardiology; ESC)高血圧部会のACE 阻害薬およびアンジオテンシン受容体拮抗薬に関する意見表明(実際は英語です)
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要するに、ACEIやARBといった降圧剤は新型コロナを悪化させる証拠はないから、内服中の患者はこれまで通りで良いという話です。
今後、これらの薬剤を内服している患者としていない患者とで重症化の頻度や致死率が異なるかが検討されれば、実際のところはどうなのかが明らかになると思いますが、それまでは慌てて血圧の薬をやめる必要はないでしょう。